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歩行瞑想中の「つらい」にどう向き合う?痛みや不快感を観察する実践法

Tags: 歩行瞑想, マインドフルネス, 体感覚, 痛み, 不快感, 実践方法, 科学的根拠

歩行瞑想は、日常的な「歩く」という行為を通して、心と体を「今ここ」に集中させるマインドフルネスの実践法です。足裏の感覚や体の動きに意識を向けることで、心のざわつきを落ち着かせ、リフレッシュする効果が期待できます。

しかし、実践中に体のどこかに痛みや不快感を感じることがあるかもしれません。特に、普段あまり運動しない方や、特定の部位に慢性的な不調がある方にとって、「このつらさにどう向き合えば良いのだろう?」という疑問が生じるのは自然なことです。

この記事では、歩行瞑想中に痛みや不快感が生じた場合の基本的な考え方と、マインドフルネスの視点からの具体的な向き合い方、そして注意すべき点について解説します。

歩行瞑想における「体の感覚」とは

歩行瞑想では、通常、足が地面に触れる感覚、足を持ち上げる感覚、踏み出す感覚など、歩行に伴う様々な体の感覚に意識を向けます。これは、頭の中で考え事をしたり、過去や未来に心がさまよったりする状態から離れ、「今」起きている体の感覚に注意を集中するためです。

体の感覚に意識を向けることは、自分自身の心身の状態に気づくための重要な練習です。しかし、この「体の感覚」には、心地よい感覚だけでなく、痛みやかゆみ、こわばり、疲労感といった不快な感覚も含まれます。

痛みや不快感が生じる理由と、まず大切なこと

歩行瞑想中に痛みや不快感が生じる理由はいくつか考えられます。

まず何よりも大切なのは、「無理をしない」ということです。歩行瞑想は心身を整えるための実践であり、体に過度な負担をかけたり、症状を悪化させたりするためのものではありません。

痛みや不快感を感じたら、まずはその感覚に「気づく」ことが第一歩です。そして、それが一時的なものか、それとも注意が必要なものかを冷静に判断するように努めます。

マインドフルな「痛み・不快感」への向き合い方

マインドフルネスでは、心身に生じるあらゆる感覚や思考、感情を「善悪」や「好き嫌い」といった評価を挟まず、ただありのままに観察することを大切にします。痛みや不快感も例外ではありません。

痛みが生じたときに、私たちは反射的に「嫌だ」「早く消えてほしい」「つらい」といったネガティブな感情や思考を抱きがちです。そして、その感覚に抵抗したり、無視しようとしたりします。しかし、この「抵抗」や「評価」が、かえって苦痛を増大させることが少なくありません。

歩行瞑想中に痛みや不快感を感じた場合、以下のステップでマインドフルに向き合う練習をしてみましょう。

  1. 気づき: まず、「あ、今、右足首に少し痛みを感じているな」というように、感覚が生じていることに気づきます。
  2. 場所の特定と観察: 痛みの場所、種類(ズキズキ、じんわり、チクチクなど)、強さ、広がり、時間の経過による変化などを、探偵のように好奇心を持って観察します。このとき、「嫌な痛みだ」「こんな痛みがあるなんて最悪だ」といった判断や評価は一旦脇に置きます。ただ、「このような感覚が、今ここに存在しているのだな」と認識します。
  3. 付随する感情や思考への気づき: その痛みに対して、心の中にどのような感情(不安、イライラ、悲しみなど)や思考(「いつまで続くんだろう」「歩くのをやめようか」「自分はダメだ」など)が湧いているかに気づきます。これらの感情や思考も、良い悪いと判断せず、「あ、今、不安を感じているな」「『やめたい』と考えているな」と、ただ客観的に観察します。
  4. 抵抗を手放す練習: 痛みや不快感を「なくそう」「コントロールしよう」とするのではなく、まるで手のひらに乗せた小石を眺めるように、そこに「ある」ことを許容する練習をします。無理に好きになる必要はありません。ただ、抵抗するエネルギーを少し緩めてみます。
  5. 注意の移動(必要な場合): 痛みが強い場合や、その感覚にとらわれすぎていると感じる場合は、意識を痛みの部位から一旦離し、足裏の別の部分の感覚や、風が肌に触れる感覚、聞こえてくる音など、他の体の感覚や周囲の環境に注意を移しても構いません。そして、再び痛みの部位にやさしく注意を戻してみます。
  6. 休憩や中止の判断: 痛みがあまりに強い場合、悪化する場合、あるいは「もう十分だ」と感じる場合は、無理せず休憩したり、歩行を中止したりすることも、体からのメッセージに耳を傾けるマインドフルな行為です。「最後までやり遂げなければ」といった思考に縛られないことも大切です。

この練習は、痛みそのものを消すためのものではありません。痛みに対する心(抵抗、評価、恐れなど)の反応を観察し、その反応から少し距離を置くことで、痛みの経験全体の苦痛を和らげることを目指します。

科学的な視点では、マインドフルネスの実践が、痛みの感覚を処理する脳の部位(感覚野)だけでなく、痛みに対する不快感や評価に関わる部位(島皮質や前頭前野の一部など)の活動にも影響を与える可能性が示唆されています。これにより、痛みの感覚そのものはあっても、「つらい」という感情的な側面や、それにどう対処すれば良いかという認知的な側面に対する捉え方が変化すると考えられています。

注意が必要なケース

一時的な不快感であれば上記のようなマインドフルな観察が有効ですが、以下のような場合は注意が必要です。

このような場合は、歩行瞑想を中断し、必要に応じて医師の診察を受けるようにしてください。歩行瞑想は健康法の一つですが、病気や怪我の治療に代わるものではありません。ご自身の体の安全を最優先してください。

よくある疑問

Q: 痛みを無視して歩き続けた方が良いですか?

A: いいえ、無視するのではなく、「気づき」、そして「観察する」ことが大切です。痛みを無視すると、体の発する重要なサインを見逃してしまう可能性があります。

Q: いつも同じ場所が痛むのですが、これは問題ですか?

A: 毎回同じ場所に痛みが生じる場合、歩き方や姿勢の癖、体の歪み、使用している靴、あるいはその部位に何らかの負担がかかっている可能性があります。マインドフルな観察を通じてそのことに気づき、必要であれば専門家(医師や理学療法士など)に相談することも検討しましょう。

Q: 痛みや不快感を感じて「つらい」と思ったら、瞑想としては失敗ですか?

A: 失敗ではありません。むしろ、「つらい」と感じている自分に気づくことが、すでにマインドフルネスの実践です。重要なのは、その「つらい」という感覚や、それに付随する思考・感情を、良い悪いの判断なしに観察し、受け止める練習をすることです。完璧を目指す必要はありません。

まとめ

歩行瞑想中に痛みや不快感が生じることは、決して珍しいことではありません。そのような感覚が生じたとき、それをネガティブなものとして排除しようとするのではなく、マインドフルネスの視点から「体からのメッセージ」として受け止め、冷静に観察する練習をすることができます。

ただし、無理は禁物です。強い痛みや継続的な痛み、異常を感じる場合は、自身の安全を最優先し、必要に応じて医療的な判断を仰ぐことが重要です。

痛みや不快感とのマインドフルな向き合い方を学ぶことは、歩行瞑想だけでなく、日常生活で遭遇する様々な困難や不快な状況に対する心の対処能力を高めることにも繋がります。焦らず、ご自身のペースで、この「気づき」の実践を深めていかれてください。